むかしがたり
さぁて、トントンと御客様、台の上には何んにもない、
無い無いずくしじゃ商売ならぬ、ひぃ、ふう、みぃ、よ、五六七、売りたいものは、この袋、娘十八番茶も出花、見たい見たいよ、あれしてみたい、握ってみたいな、打出の小槌、なぜてみたいな坊主の頭、
さぐってみたいな、布袋のへそを、またいでみたいな、三千世界、のってみたいな、雲のうえ、
みせたい物は数々あるが、月に村雲花に風、
こんな袋に詰っているが、味は、大和のつるし柿、
関八州に隠れもしない、西が富士なら東はつくば、
甘いものにも十二月、目出度いものなら、
初日をあびて、松に鶴から始まれば、
梅に鶯ホウホケキョ、ついでにあなたに、
ホウホケキョ、御殿の桜の菅原様が、桜の短冊花見酒、紫煙る藤の花、藤に一声ホトトギス、
ニコ ニコ ニッコリ花あやめ、いずれがアヤメか、カキツバタ、立てばシャクヤク座ればボタン、
歩く姿はぶたの尻(ケツ)、つがいの蝶々の舞い遊び、萩にしっぽり濡れそめて、袖振り合うもたしょうの縁、二重坊主に苅萱で野山に咲いた菊に猪口、
紅葉あるのに雪となり、恋にこがれて鳴く鹿の、
時雨の雨が気にかかる、蛇の目の傘にふる雨は、
甘いか、にがいか、しょっぱいか、
小野の道風じやないけれど、蛙見とれて、立ち帰る、おっと帰っちゃいけない、御客さん、
大きくきたぞ桐の花、三光四光に五光ときたら、
勝たしてやりたい親心、
すべたメクリを売るんじゃねえよ、
当地名代のチョキリ飴を、
味と甘さは保証付き、婆様なめれば孫まで甘い、
塩っぱかったら御代はいらぬ、つまんでみたいな、
娘の尻を、なめてみたいな、チョッキリ飴を、
今日は大負け銭金いらぬ、と言ったんでは飯食えぬ、まるい玉子も切り様じゃ四角、
もってけ泥棒二十文でどうだ、えぃー、
チョピリ負けたは、天道様に悪い、五文、御絞は、
葵の御紋、十文負けたがまだ買わないか、
下でなめれば、二階まで甘い、
五文で百売りゃ五円になるぞ、
御縁繋ぎだ五文に負けた、
こんな安売りしたことねえぞ、
はい はい五文はい五文、チョッキリ飴だ、はい五文、チョッキリ飴だ、さあ五文。
はい ありがとうさん、ありがとさん。
春の花咲く宿場の辻で、今日もなつかし、
香具師の声は、風にふかれてどこにいく。
昭和三十年六月採集、故人に名をふす約束あり
思い出の、たんか売、を残すのも供養と思う。
《寄稿》醍醐野童 編集(禁無断転載)