そりゃ昔のこったってよ、でっけえ寺があってな、そこの小坊主の話をすんべかな。
なに一休さんの話だっぺえ、うんにゃちがうだ、
そんなに頭がよくねえでもちょっとだけおめえさんたちより、利口かな。
さてそんなことどうでもいいや、その寺にな、ある日檀家さんからいっぺえぼた餅もらったんだってよ。その日はだあれもいなくて、重箱のふたをちょっとだけ開けると、うまそうなぼた餅がいっぺえ詰まってる。
小坊主たまらなくなって、一つくらいはいいだろう、喰ってしまった。そのぼた餅のうめえこと、あんこを箸でならしてたら、もうひとつ喰いたくなっちゃった。つばをごくんと飲むと、ぱくりぱっくりこん、はあ喰らったと重箱を見ておどろいた、ぼた餅が一つしかねえ。さて、どうする。
困ったな。だがうまいこと考えた。重箱を紙でくるんで柳の木の下に埋めておくことにした。そしておまじないの歌をよんだってさ。その歌は教えられねえよ。
それをじいと見ていた和尚さんが小坊主に何食わぬ顔で村はずれの豆腐屋につかいにやった。そのすきに重箱を掘り出すと、にたりと笑った。
やがて小坊主が帰ってくると、そら風呂をわかせ、やれ掃除しろ、くたくたになるほど使われた。やがて腹が減ったので、あたりを見わたし、だあれもいないとたしかめて、さきほどの柳の下を掘り起こして、まじない歌をうたった。
「おらが掘ったぼたもち出てこ」
「よそもんが掘ったらげえるに化けろ」
と掘り出した。やがて紙包みをやぶると、ごくとつばを飲みこんで、ふたを開けた。ところがどっこいほんものの蛙が跳びだした。小坊主あわててぼた餅がにげた。
「おいおいあんまりはねんなあ、あんこがおちるぞ」と追いかける。
「おい、おいらだぞ、よそもんじゃねえってばよ」
やがて池の中に「どぼん」それを影でみていた和尚さんは腹を抱えて大笑いしたってさ。
「壷閉めた」終
旅を笑ってお蛙んなさい。またお逢いしましょう。
≪寄稿≫醍醐野童見聞(禁無断転載)