おいはぎ

 むかし、東金には、上総もめんの問屋がたくさんありました。

その頃は馬や大八車に上総もめんを積んで、江戸まで運ぶとたいへん儲かったということです。

 宗兵さんは、東金でも三代続く商人で、江戸でもたいへんよく知られた人でした。

 ある日、江戸で大もうけをして帰って来たときのことです。山田の坂にさしかかったところで、きらきら光る刀を持ったおいはぎが、とつぜん目の前にあらわれました。

あたりはうす暗く、ほかには誰も通りません。おいはぎは、

「おい、こら。あり金残らず置いて行け。」

と、宗兵さんに刀をつきつけました。宗兵さんは、たまげたのなんの、腰を抜かしそうになりました。

しかし、宗兵さんも男です。そして、なにより東金商人です。

よくすかして見ると、おいはぎはまだ若いし、刀の先がぶるぶる震えています。

「ははあん、こいつは初めてのおいはぎだな。ひとつ大きくでてやれ。」

と思った宗兵さんは、商人らしく腰を低くして、

「いまは仕入れの帰りで一両ほどしかもってねぇでさぁ。せっかくだから、東金ん街まで来てくんねぇでしょうか。そしたら、もう少し出せっです。」

と言うと、おいはぎは、

「うそじゃないなぁ。」

とうたがうように言いました。宗兵さんが、

「うん、うそは言わねぇです。街まで来てくっさい。おめぇさんがいると、これからの道も安心だし、後押してくれれば、おらも助かるでさぁ。」

と答えると、おいはぎは

「本当に、くれっか。」

と問いかえしてきました。

「うん、まちげぇねぇです。」

と、言いました。話しがまとまって、おいはぎが車の後押しをして、東金の街に向かいました。さあ、早いこと、早いこと。あっという間に街についてしまいました。

 店の前につくと、宗兵さんは

「おーい、いま帰ったよ。」

と、大きな声で言いました。すると、

「おかえりなさい。」

といって、奥さんやお店の人たちがおおぜい店から出てきました。

こんどは、おいはぎのほうがびっくりしました。宗兵さんは、

「こん人が手伝ってくれたんでよ、早く帰ってくっ事が出来たさ、礼をしたいので奥に入ってくったいよ。」

と、おいはぎを奥に招き入れました。

奥に入ると宗兵さんは

「二人でちょっと話しがあっからさ。」

と言って、ほかの人たちをおい払いました。そして二両のお金をおいはぎの前に出して、

「見れば、おめぇも若ぇようだし、おれのところで働いてみたばどうだかい。今日のことはよ、おれの胸におさめておくかっさ、誰んも言わねぇかっよ。」

と勧めました。おいはぎはすっかり宗兵さんの人がらにひきつけられて、その店で働くことになりました。

 いっしょうけんめい働いたおいはぎは、やがて店をもつほどに出世したそうです。

 

「壷閉めた」終 

またお逢いしましょう。

≪寄稿≫醍醐野童見聞(禁無断転載)





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